にしむらあきこ

父とダンス

夢をみた。学校の校庭のどまんなかで、父はオフィスチェアに座っている。よく身につけていた綿の水色のパジャマを着て、茶色の模様が入ったウールのガウンを羽織っている。50歳くらいの時の父の姿をしていた。長身細身でなかなかイケメンだったので、パジャ...
にしむらあきこ

わたしのともだち

明けない夜はない。止まない雨はない。使い古されて鮮度も落ち、ありきたりで色気のないこの言葉を、この2年近くなんどもなんどもの口の中でもごもごとつぶやいていた。そういえば中学生の時の同級生は、同じような意味をもって「不景気のあとは好景気が必ず...
クロヌマタカトシ

温泉と水源

水が湧き出している場所が好きだ。目には見えずとも土の中を脈々と流れ続け僅かなきっかけで目の前に現れたそれに想いを馳せるのが好きだ。いつに降った雨かも知れず、どこの山から来たのかも分からない。渾々と、粛々と、どこにも威張る仕草もないまま湧いて...
にしむらあきこ

空気をたべる人

先日、息子の通う放課後ディサービスで面談があった。そこで担当のS氏は、息子のことを「空気をたべる人」と言った。空気を食べ、消化し、表現する人。感受性が豊かな息子にくれた言葉だった。空気を食べるのだから、なるべくあたたかな、おだやかな、美味し...
稲垣尚友

トカラ列島 平島語大辞典 抄

【あじろ】(網代)カツオ節を作るときの道具。木製の箱で、深さが十センチ前後、縦が一メートル弱、横幅が五十~六十センチある。底に竹が張ってある。幅二~三センチに割いた竹が、やはり、二~三センチ間隔で縦長に釘付けしてある。梁から吊したアジロの中...
富井貴志

We Are Atoms その後 – 2022年7月

昨年4月に「自由学園明日館 婦人之友社展示室」での個展の直前に、We Are Atoms と名付けた彫刻刀で彫模様を施した仕事について、こちらで書かせていただきました。当時のほとんどの仕事は私が研究室にいた頃に経験したような、単一の物質で構...
富井貴志

新しい時計

また来た。じわーっと身体の芯から暖かくなるような感覚。これまでものづくりをしていて一度も感じたことはなかったのに。————-昨年の11月終わり頃から制作中にだけ頻繁に訪れる表現しづらい幸福感。数ものでも一点ものでも関係なく、毎日一度はやって...
にしむらあきこ

うたうたい

おちばがいっぱいわさわさわあさふんであるくよがさがさがあさがっこういきましょごきげんさん(おちばのうた)通学路にどっさりと降る落ち葉の海を、息子と楽しんでいるときに作った歌である。とにかくご機嫌良く、さっさと学校にいってほしい、というきもち...
にしむらあきこ

ことのはの海

あの時傷つけた友達の顔や、恋人と過ごした時間の匂いや、学校帰りに歩きながら食べたコロッケの味や、女友達のきれいな足の形や、片想いした彼の深いため息や、上司の緊張する声の震えや、ひそひそと内緒話する同級生の吐息の熱さと耳元のくすぐったさや。心...
富井貴志

We Are Atoms

まずは Eames Office がYouTubeで公開している『Powers of Ten』をご覧ください。有名な映画なのでご覧になられたことがある方も多いかと思います。これは1977年に発表されたカラー版で、原型は1968年にモノクロの...
にしむらあきこ

鮮やかな世界を

コップから水を飲むコップの底にそっと耳にあてるとんとん、と指ではじく視線が宙をさまようそれから耳を離して私を見てにっこりとわらいあー、という薄暗いアトリエのドアを開けると、水のにおいがする。ガタガタとがたつく古い雨戸を開けて、空気と光をいれ...
富井貴志

降りつづく 変わりつづける

1月10日、夜明け前に何度も目覚めてしまい、その度に部屋の細長い窓から街灯に照らされる外の様子を窺う。濃密な白色の結晶の集合は空間を夜中うっすらと明るく保ち、深々と音もなく降り続けている。もう何日目だろう。5時頃から妻と2人で道路から家まで...