にしむらあきこ

和紙造形作家


1974年 京都府生まれ
千葉県市川市育ち
東京都東村山市在住
文化女子大学工芸デザインコース卒業後、世田谷和紙造形大学にて和紙造形を学ぶ
今立現代美術紙展大賞受賞
2019年 東村山市の文化複合施設「百才ももとせ」内に「アトリエ紙と青」を構える
主な仕事は宿泊施設・福祉施設等のコミッションワーク、和紙造形のワークショップ、個展、企画展参加など
www.paper-blue.com

にしむらあきこ

恋する紙宝石

2年ぶりのヒナタノオトさんの個展です。 2年前、「青の王国」のあとにすぐ2年後の個展のお話をいただき、そのときから「恋」をテーマにしようと構想を練ってきました。 「恋」なんぞ遠いもの、忘れかけていたもの、懐かしいもの。 そんなふうに思ってい...
にしむらあきこ

父とダンス

夢をみた。 学校の校庭のどまんなかで、父はオフィスチェアに座っている。 よく身につけていた綿の水色のパジャマを着て、茶色の模様が入ったウールのガウンを羽織っている。 50歳くらいの時の父の姿をしていた。 長身細身でなかなかイケメンだったので...
にしむらあきこ

わたしのともだち

明けない夜はない。 止まない雨はない。 使い古されて鮮度も落ち、ありきたりで色気のないこの言葉を、この2年近くなんどもなんどもの口の中でもごもごとつぶやいていた。 そういえば中学生の時の同級生は、同じような意味をもって「不景気のあとは好景気...
にしむらあきこ

空気をたべる人

先日、息子の通う放課後ディサービスで面談があった。 そこで担当のS氏は、息子のことを「空気をたべる人」と言った。 空気を食べ、消化し、表現する人。 感受性が豊かな息子にくれた言葉だった。 空気を食べるのだから、なるべくあたたかな、おだやかな...
にしむらあきこ

うたうたい

おちばがいっぱい わさわさわあさ ふんであるくよ がさがさがあさ がっこういきましょ ごきげんさん (おちばのうた) 通学路にどっさりと降る落ち葉の海を、息子と楽しんでいるときに作った歌である。 とにかくご機嫌良く、さっさと学校にいってほし...
にしむらあきこ

ことのはの海

あの時傷つけた友達の顔や、 恋人と過ごした時間の匂いや、 学校帰りに歩きながら食べたコロッケの味や、 女友達のきれいな足の形や、 片想いした彼の深いため息や、 上司の緊張する声の震えや、 ひそひそと内緒話する同級生の吐息の熱さと耳元のくすぐ...
にしむらあきこ

鮮やかな世界を

コップから水を飲む コップの底にそっと耳にあてる とんとん、と指ではじく 視線が宙をさまよう それから耳を離して 私を見てにっこりとわらい あー、という 薄暗いアトリエのドアを開けると、水のにおいがする。 ガタガタとがたつく古い雨戸を開けて...
にしむらあきこ

秋の日

大好きな秋がきた。 息子とどんぐりを蹴飛ばしながら歩く。 落ち葉の海をがさがさ歩く。 空に響くのを確かめるように、彼は、あ、と声をあげる。 あき、の、あ。 あそぼう、の、あ。 あんぱん、の、あ。 あお、の、あ。 息子は「あ」をもっている。 ...
にしむらあきこ

梅雨の日

・・・ 雨が降っている。 縁側に揃えて置いたスニーカーに、水が溜まっている。 そこに雨がわっかをつくる。 わっかのなかに細い線がいくつも走っている。 ぴちっと音がして、スニーカーから何かが飛び出した。 赤い小さな魚だった。 ぴちっぴちっと飛...
にしむらあきこ

春の日

わたしは少し、狂っていたと思う。 あの日。 あの、9年前の春。 長い冬を越えて、さまざまないきものの命の喜びが溢れる。 あたたかな日差しや、風の運ぶ花の香り、桜の淡い色景色。 それらを楽しむことも忘れて、わたしは情報をいち早く手に入れたくて...
にしむらあきこ

冬の日

窓はたっぷりと結露し、外はまだ暗い。 「だして、だして」と騒ぐ白猫と黒猫を、薄く窓を開けベランダに出してやると、隙間からわたしの呼吸がもれて高く登っていく。 2匹は寒さですぐに「いれて、いれて」と戻ってくる。 2月の朝。 息子はこの2月で1...