にしむらあきこ ことのはの海 あの時傷つけた友達の顔や、恋人と過ごした時間の匂いや、学校帰りに歩きながら食べたコロッケの味や、女友達のきれいな足の形や、片想いした彼の深いため息や、上司の緊張する声の震えや、ひそひそと内緒話する同級生の吐息の熱さと耳元のくすぐったさや。心... 2021.08.25 にしむらあきこ寄稿帖
富井貴志 We Are Atoms まずは Eames Office がYouTubeで公開している『Powers of Ten』をご覧ください。有名な映画なのでご覧になられたことがある方も多いかと思います。これは1977年に発表されたカラー版で、原型は1968年にモノクロの... 2021.04.10 富井貴志
にしむらあきこ 鮮やかな世界を コップから水を飲むコップの底にそっと耳にあてるとんとん、と指ではじく視線が宙をさまようそれから耳を離して私を見てにっこりとわらいあー、という薄暗いアトリエのドアを開けると、水のにおいがする。ガタガタとがたつく古い雨戸を開けて、空気と光をいれ... 2021.04.07 にしむらあきこ寄稿帖
富井貴志 降りつづく 変わりつづける 1月10日、夜明け前に何度も目覚めてしまい、その度に部屋の細長い窓から街灯に照らされる外の様子を窺う。濃密な白色の結晶の集合は空間を夜中うっすらと明るく保ち、深々と音もなく降り続けている。もう何日目だろう。5時頃から妻と2人で道路から家まで... 2021.01.21 富井貴志
にしむらあきこ 秋の日 大好きな秋がきた。息子とどんぐりを蹴飛ばしながら歩く。落ち葉の海をがさがさ歩く。空に響くのを確かめるように、彼は、あ、と声をあげる。あき、の、あ。あそぼう、の、あ。あんぱん、の、あ。あお、の、あ。息子は「あ」をもっている。「あ」が彼のすべて... 2020.10.08 にしむらあきこ寄稿帖
富井貴志 動くことは面白い 朝晩ずいぶん涼しくなって、などと書き始めたい時期なのですが、僕が暮らしているあたりは8月の下旬からいよいよ夏真っ盛りといった暑さに見舞われました。9月も半ばになりましたが日中はまだまだ夏の日差し。そろそろようやく空気が変わってくるのかなと期... 2020.09.17 富井貴志
にしむらあきこ 梅雨の日 ・・・雨が降っている。縁側に揃えて置いたスニーカーに、水が溜まっている。そこに雨がわっかをつくる。わっかのなかに細い線がいくつも走っている。ぴちっと音がして、スニーカーから何かが飛び出した。赤い小さな魚だった。ぴちっぴちっと飛んでいく。引き... 2020.06.18 にしむらあきこ寄稿帖
富井貴志 池に想う つい先日まで乾いていた空気にもじっとり重みを感じるようになりました。これから徐々に木の仕事には難儀する季節に向かっていくわけですが、山も庭もあっという間に濃淡の緑に彩られ、心華やぐ時でもあります。2週間ほど前にはまだホワホワと柔らかな色合い... 2020.05.21 富井貴志
にしむらあきこ 春の日 わたしは少し、狂っていたと思う。あの日。あの、9年前の春。長い冬を越えて、さまざまないきものの命の喜びが溢れる。あたたかな日差しや、風の運ぶ花の香り、桜の淡い色景色。それらを楽しむことも忘れて、わたしは情報をいち早く手に入れたくて始めたツイ... 2020.04.09 にしむらあきこ寄稿帖
にしむらあきこ 冬の日 窓はたっぷりと結露し、外はまだ暗い。「だして、だして」と騒ぐ白猫と黒猫を、薄く窓を開けベランダに出してやると、隙間からわたしの呼吸がもれて高く登っていく。2匹は寒さですぐに「いれて、いれて」と戻ってくる。2月の朝。息子はこの2月で10歳にな... 2020.02.20 にしむらあきこ寄稿帖
富井貴志 山に追いやられた木 日本の山は木で覆われている。平地の少ない地域を別にすれば、平らな低地で米作りを追求してきたためだろう。特に僕が住んでいる新潟県中越地域では平地は水田、木は山にといった景色が延々と続いている。我が家はいわゆる中山間地域にあるので、棚田も多く、... 2020.01.23 富井貴志