SOUP にしむらあきこさんより

くつくつくつくつ。
野菜のスープを煮込みながら書いています。

1週間前まで入院していたのですが、入院生活で読み返した三度目の「おばあちゃんの食器棚」。
白磁のスープボウルの項に出てくるはるさんのスープが美味しそうで、「退院したら絶対作るぞ」と心に決めていました。
挿絵も美味しそうで食欲をそそり、入院生活の限られた食事で空かせたお腹がぐうぐうと、腹のなかに雷が落ちるが如くうるさい夜の決意でした。

その白磁のスープボールのお話も大好きですが、今回惹かれたのは「こぎん刺しのティーコゼ」です。

過去から未来へ続く時間軸の線上で、津軽の女たちの影が重なり合い、登場人物の晶子さんに繋がる。
その晶子さんもだれかに繋げていく。
音もなく降る雪の景色、自分だけの雪原。
6行ほどの静かな営みの描写に、このときの私は吸い寄せられ、景色がありありと浮かび上がり、その美しさに思わず涙がこぼれたのでした。
私はその雪原を知っている、そんな気がしたのです。

次にこの本を開くとき、どの物語が心を動かしてくれるでしょうか。
それを楽しみに、本棚にそっと差し込みました。

スープは美味しくできあがったか、それは今度お会いした時に。(生姜をいれすぎたかもしれない)

にしむらあきこさん
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