「おばあちゃんの食器棚」
この作り手の人はこの人のことかな?と想像しながら楽しく読みませていただきました。
なかでも私が印象に残ったのは、リネンのテーブルクロスのお話でした。
よく洗いざらしたどっしりとしたリネンのクロスで食器を拭くときの充実感は私にとってもとても身近な感覚です。
はるさんが食事に使った器を丁寧に洗って布巾で拭いて、
その後に食器棚にしまう前に、テーブルに広げたリネンのクロスの上に置いて風を通して乾かす。
「真っ白な私の上に置かれていく器は、それはさっぱり気持ちよさそうでしたよ。」
というリネンのクロスの声と同じような声が我が家でもよく聴こえているような気がします。
きちんと折しわのついたリネンのクロスの上にものを置いたり拭き清めただけで、
気持ちまで仕切り直したようになるのから不思議です。
この本を読んでいて稲垣さんがデンマークのフォルケ・ホイスコーレに留学中の出会いと交流を書かれた
「北欧の和み」の中にもリネンにまつわるエピソードがあったことを思い出しました。
「朝食だけはずっといちばんに食堂に入った。
それはパンを最初に切りたかったから。
いや、正確に言えば、焼きたてのパンを覆っている、腰のあるリネンのたっぷりとした姿に会いたかったからだ。
キッチンのスタッフが無造作にパンにかぶせた洗い晒した布には、リネンの特徴だろうか、
淡い光が集まっているようで、その布の包んでいる美しい姿は、私の朝のささやかな幸福の一つだった。」
(「北欧の和み」、アノニマ・スタジオ、2008年)
まだ繊維が新しいパリパリのリネンの清々しさも素敵ですが、
稲垣さんの本に登場するような色んな人の手で使い込まれてきたリネンの持っている、
何かをどっしり受け止めてくれるような安心感(?)も大好きです。
そこに流れてきた時間を(はるさんのリネンのように)物語ってくれる布に耳を傾けるのもリネンならではの魅力だなあと思います。
はるさんの器や布たちの声を聞きながら、ふと私の脳裏に浮かんだのは、稲垣さんがお母様とお話されている姿でした。
その昔私が学生だった頃、稲垣さんが企画するギャラリーで展示替えのお手伝いをさせていただいた時期がありました。
繁忙期にはたまにお母様もお手伝いに来られていた事がありましたし、
お仕事終わりにお家にお邪魔し手料理をご馳走していただいた事もありました。
ギャラリーでもお家でも、てきぱきと身をひるがえしスピーディーに動き回られる稲垣さんの横で、
お母様はゆっくりとしたペースで、優しく、お茶目に接してくださったのを覚えています。
「おばあちゃんの食器棚」の穏やかな語り口はまさに稲垣さんのお母様の面影を帯びていて、
きっと読むたびにあの優しさを蘇らせてくれる本なのではないかと思うのです。
+++
齋藤田鶴子さんはローマ在住
イタリアでリネンを中心とした素材で実に美しい織物制作のほか、テキスタイルの研究をされています。
インスタグラムはあまりポストされていませんが、こちらです。
→ click
HPなどはお持ちではないのですが、数年前の百草さんでの紹介文をリンクします。
→ click
リンク先の田鶴子さんの紹介文の最後の方に、リネンのテーブルクロスが敷かれた絵画が掲載されてあって、
ヨーロッパの食卓風景になじむ布の姿が垣間見れます。