長野麻紀子

ひかりのはるに

インドの南方に、12年に一度、あたりいちめん青い花で埋め尽くされる山があるという。いちめんの花を追い求めて、ナミビアから南下して南アフリカの首都ケープタウンへと向かう途中に悠然と横たわる秘境ナマクアランドまで行って帰った直後だったろうか、そ...
富井貴志

降りつづく 変わりつづける

1月10日、夜明け前に何度も目覚めてしまい、その度に部屋の細長い窓から街灯に照らされる外の様子を窺う。濃密な白色の結晶の集合は空間を夜中うっすらと明るく保ち、深々と音もなく降り続けている。もう何日目だろう。5時頃から妻と2人で道路から家まで...
にしむらあきこ

秋の日

大好きな秋がきた。息子とどんぐりを蹴飛ばしながら歩く。落ち葉の海をがさがさ歩く。空に響くのを確かめるように、彼は、あ、と声をあげる。あき、の、あ。あそぼう、の、あ。あんぱん、の、あ。あお、の、あ。息子は「あ」をもっている。「あ」が彼のすべて...
長野麻紀子

ふしぎないきもの

林檎のかおりの衣をまとい、こっくりとろんと琥珀をとかしたような秋がやってきた。うだるような暑さを抜け出したのはつい先日のことだというのに、生い茂る空き地の草穂のうえに蜻蛉が羽ばたき、トカゲは陽だまりにちいさくあくびをする。全身で伸びをする。...
富井貴志

動くことは面白い

朝晩ずいぶん涼しくなって、などと書き始めたい時期なのですが、僕が暮らしているあたりは8月の下旬からいよいよ夏真っ盛りといった暑さに見舞われました。9月も半ばになりましたが日中はまだまだ夏の日差し。そろそろようやく空気が変わってくるのかなと期...
長野麻紀子

Measurement Tool

わたしの好物はカツ丼である、というとちょっと語弊がある気もするのだけれど、今のいま、いっとう好きではないにしろ、かつて熱烈に愛した時期があった。レスタースクエア駅の地下の階段を登り切って地上に上がり、チャイナタウンへと向かう路地裏、チャイナ...
にしむらあきこ

梅雨の日

・・・雨が降っている。縁側に揃えて置いたスニーカーに、水が溜まっている。そこに雨がわっかをつくる。わっかのなかに細い線がいくつも走っている。ぴちっと音がして、スニーカーから何かが飛び出した。赤い小さな魚だった。ぴちっぴちっと飛んでいく。引き...
富井貴志

池に想う

つい先日まで乾いていた空気にもじっとり重みを感じるようになりました。これから徐々に木の仕事には難儀する季節に向かっていくわけですが、山も庭もあっという間に濃淡の緑に彩られ、心華やぐ時でもあります。2週間ほど前にはまだホワホワと柔らかな色合い...
長野麻紀子

エルダーフラワーコーディアル

編集者記エルダーフラワーって、ご存知ですか?西洋ニワトコとも呼ばれ、日本でもコーディアルとして少しずつ知られてきました。デンマークでは、初夏のポピュラーな飲み物であり、仕込みのシーズン。イギリスに4年程を暮らしたことのある長野麻紀子さんが、...