七美さんから布が届く

七美さんから布が届く。

茅乃舎さんの西宮での催事のおかげで、こんな喜びも叶うのです。

愛媛県松山市で制作をされる岡崎七美さん。
sun and snow
という名前で、手捺染のプリント生地での作品や、手織りの布を制作、発表されていました。
スウェーデンの学校に滞在して、彼の地で出会った人々や暮らしから有形無形の学びを得られて、
故郷松山で制作を続けて来られた七美さん。

ご結婚後は、夫君と農業にも従事され、そしてお子さんが3人!
sun and snowの活動は、お休みしつつ、少しずつ再開、、な日々。

人生の中で、かけがえのない充実の年月。
制作を続けていらしても、お休みなさっても、どちらであっても、七美さんの選んだその時の過ごし方。
幸ありますようにと、遠く関東から願っていました。

ところで、今回の企画は、茅乃舎のMさんという、10年来ヒナタノオトを見てくださった方が昨年立ち上げ、担当くださっているもの。
Mさんが都内在住中には、「工房からの風」にいつも来場し、百貨店催事も担当くださっていたのでした。

そのMさんが昨年末、ふと話してくれたのです。
「引っ越しをするたびに、以前買い求めたsun and snowさんのパネルを玄関に飾っているんです。
それをみるたび、作り手の方々やヒナタノオトの皆さんのことが思い出されて、がんばろう、って思えるんですよね」と。

ありがたいなぁ。
そして、そんな風に思い起こさせてくれる作品を作った七美さんに、Mさんの企画展へぜひ出品してほしいなぁ。
ふつふつと、そんな想いがこみ上げてきたのでした。

今年の1月の終わりの頃、思い切って、メールをしました。
Mさんのお話もお伝えして、西宮の展に出品してほしいと。

少し日をおいて返って来たのは、以下のような文面でした。

七美さんから
「・・・
お誘いいただけること、それこそ子育てのトンネルの中を闇雲に走っている今の私にとって、
はっと自分に立ち返る思いと共に、作りたいなーと喉から手が出るほどの思いになります。
本当にありがとうございます。
そして、Mさんが私のパネルを購入して下さり、そしてそれを飾ってくださっていること、
そこに思いを重ねて下さっていることにも、とても嬉しく、感謝の気持ちでいっぱいです。

一番上の子が春から1年生。
その下が年中、その下がプレ保育の今年の春。
昨年1年を振り返り、さてどのように自分の時間を捻出するかが今年の私の課題です。
sun and snowの活動として、昨年はほんの少しだけ企画展に参加させてもらったりしたのですが、
やはりまだ難しかったなあ・・・と大きな反省と共に2023年を終えました。

このほとんど休止に近い状態の6年間を経て、今の私が作りたいものはなんだろうと、より素直に向き合う機会だと感じています。
そしてそれを形にできるようになるにはもう少し時間が必要で、まだなんの形にもなっていない今の私は、自信がないというのが正直な気持ち。
きっと手を動かし始めたら、スルスルと動き始めるのだと信じているのですが、まだそこのスタートラインに立てていないんです。

今手元にある在庫、ある版でプリント、できなくはないのですが、そうやってこなすだけになりたくないなと思っています。
稲垣さん達に見てもらえるものは、まだ作れてないな、5月までに作れるかというのも、自信がないな、、というのが今の私です。
・・・制作にどれだけの時間があてられるかわからないという不安があるので、今回は少しこのお返事に悲しく思いますが、断念いたします。

こうしてお便りいただいたこと、本当にありがとうございます。
私の中の火種として、あたため続けてこれからにつなげていきたいと思います。」

七美さんが真剣に迷い、考えてくださったこと、ひしひしと伝わってくるメールでした。

私も少し日を置いて、メールをお返しをいたしました。

稲垣から
「・・・
七美さんの充実されていながらも、きっとモリモリの日々で、制作になかなか思うように手も心も回らない日々、
私なりにですが想像できます。
そのような中にご提案、してしまって申し訳なかったなぁと思いました。
けれど、Mさんの七美さんの作品への親しみを伺って、お声を掛けずにいられなかったのでした。

:::

七美さんの思うような制作が出来るようになった時に、またお仕事ご一緒できるのはもちろんうれしい!です。
けれど、今回のお声がけは、よい意味で刺激的なものではなく、
ハレとケで言えば、ケの中での質の良い仕事をご紹介する機会ととらえています。
「使い手」に向けて、ヒナタノオトの、私の推奨する作り手の方々の実りを集めた会と。

七美さんのお気持ちに反するようでしたら申し訳ないのですが、今回は
『 今手元にある在庫、ある版でプリント』
でのクロスだけでもとてもうれしく思うのです。
今、ご多忙の中でも七美さんが制作の手を動かしてできたものが誰かの歓びになって、
また、その制作の営みが、少し先の制作への呼び水のようになったり、準備運動のようになったりしたら、この機会もとても生きると。
もし、シンプルにキッチンクロスやハンカチのような平らな作品を久しぶりに出品いただけるようでしたら、ありがたいなぁと思います。
そして、その制作が七美さんにとってもよいリズムになるのでしたら。。。

もし、ご負担な気持ちになられたらごめんなさい。
まったく、そんな思いはないので、その節はご放念くださいね。

そして、発想を変えられて、よい意味で軽やかに制作ができそうでしたら、
少しでもぜひご参加いただけましたらうれしく、ありがたく思うのです。」

と。

すると、七美さんからは、
「作ってみよう、出品してみよう」
と、爽やかに軽やかなお返事をいただいたのでした。

前置きが長くなりました。
ごめんなさい。

では、ここから七美さんからのメッセージをお届けしますね。

Q1
sun and snowさん、今展には、どのような作品をお出しくださるのでしょうか?

A1
いくつかの植物模様の版に色を重ね、捺染(なっせん)しました。
テーブルに敷いたり、ふきんやハンカチとして日常使いにしたり、どこかに出かける時に包んだり、インテリアとして掛けたり、、、
使い方は自在の布。
そんないろいろな四角い布をお届け予定です。

共通アンケートへの回答は上記だったのですが、そのあと、このように綴ってくださいました。

「・・・
布に向かう時間、そしてほんの少しですが、紐を織ったり、裏布をびわの葉で染めたりしていた時間は、
何でもないのだけど、涙が出てくるようなきゅーっとなる時間でした。
嬉しい時間。
このような機会を与えていただき、ありがとうございます。
四角い布ばかりなのですが、誰かの暮らしのひとコマに寄り添う布となればと願いつつ。。。」

ああ、よかった。

素晴らしい才能や技術を持ちながら、さまざまな事情で制作を中断する方をたくさん見てきました。
女性の場合は、出産育児と制作のバランスをとるのが難しいですね。
特に優れた才のある方ほど、全力で制作できないことがもどかしくって、
日常の中でままならない制作に、手を止めざるをえなくなってしまうように感じてきました。

けれど、制作の上ではトンネルのような中にあっても、トンネルを抜けた時には、
前以上にパワフルになった作家の方もたくさん見てきました。
トンネルの中にいる時には、無理せず、けれどその時ならではの速度で手を動かし、発表をして、人と心地よく交流できたらいいですね。
七美さんが今回制作して、出品くださる布には、ここ数年の充実した人生の時間が、きっと爽やかに染まっていると思います。

Mさんとの再会。
茅乃舎西宮ガーデンズでの企画展という機会から生まれたエピソード。
長い文章になりましたけれど、お読みくださり、ありがとうございました。
(上記、七美さんのご許可をいただき、掲載させていただきました)

sun and snowさんのHPはこちら
→ click

インスタグラムはこちらです。
→ click