長野麻紀子

夏をつける

梅雨明け快晴。家の南に面した掃き出し窓、いちめんを覆いつくすように伸びた蔓性植物のカーテンがときおりの風にはためいて、白い部屋のなかまでも、淡い黄緑いろにぼんやりと染める。東京はあいかわらずの緊急事態宣言下で、出掛けてはいけないわけではない...
富井貴志

We Are Atoms

まずは Eames Office がYouTubeで公開している『Powers of Ten』をご覧ください。有名な映画なのでご覧になられたことがある方も多いかと思います。これは1977年に発表されたカラー版で、原型は1968年にモノクロの...
にしむらあきこ

鮮やかな世界を

コップから水を飲むコップの底にそっと耳にあてるとんとん、と指ではじく視線が宙をさまようそれから耳を離して私を見てにっこりとわらいあー、という薄暗いアトリエのドアを開けると、水のにおいがする。ガタガタとがたつく古い雨戸を開けて、空気と光をいれ...
長野麻紀子

ひかりのはるに

インドの南方に、12年に一度、あたりいちめん青い花で埋め尽くされる山があるという。いちめんの花を追い求めて、ナミビアから南下して南アフリカの首都ケープタウンへと向かう途中に悠然と横たわる秘境ナマクアランドまで行って帰った直後だったろうか、そ...
富井貴志

降りつづく 変わりつづける

1月10日、夜明け前に何度も目覚めてしまい、その度に部屋の細長い窓から街灯に照らされる外の様子を窺う。濃密な白色の結晶の集合は空間を夜中うっすらと明るく保ち、深々と音もなく降り続けている。もう何日目だろう。5時頃から妻と2人で道路から家まで...
にしむらあきこ

秋の日

大好きな秋がきた。息子とどんぐりを蹴飛ばしながら歩く。落ち葉の海をがさがさ歩く。空に響くのを確かめるように、彼は、あ、と声をあげる。あき、の、あ。あそぼう、の、あ。あんぱん、の、あ。あお、の、あ。息子は「あ」をもっている。「あ」が彼のすべて...
長野麻紀子

ふしぎないきもの

林檎のかおりの衣をまとい、こっくりとろんと琥珀をとかしたような秋がやってきた。うだるような暑さを抜け出したのはつい先日のことだというのに、生い茂る空き地の草穂のうえに蜻蛉が羽ばたき、トカゲは陽だまりにちいさくあくびをする。全身で伸びをする。...
富井貴志

動くことは面白い

朝晩ずいぶん涼しくなって、などと書き始めたい時期なのですが、僕が暮らしているあたりは8月の下旬からいよいよ夏真っ盛りといった暑さに見舞われました。9月も半ばになりましたが日中はまだまだ夏の日差し。そろそろようやく空気が変わってくるのかなと期...
長野麻紀子

Measurement Tool

わたしの好物はカツ丼である、というとちょっと語弊がある気もするのだけれど、今のいま、いっとう好きではないにしろ、かつて熱烈に愛した時期があった。レスタースクエア駅の地下の階段を登り切って地上に上がり、チャイナタウンへと向かう路地裏、チャイナ...