器たちが語り出すあたたかで愛おしい物語。
一番胸を締め付けられたのは、やっぱり「ガラスのヒヤシンスポット」のお話しでした。
緑さんの工房を訪れたはるさんが目にした光景。
通常 吹きガラス工房というのは、24時間窯の火を絶やさず ごうごうと燃え盛る音が響いて、視覚的にもオレンジ色の光があたたかい、活気のある場所です。
一方で、都合により火を止めたガラス工房は、しんとして凍てつくような無機質さがあり、水あめのように熱く柔らかかったガラスも、窯の底で氷のように冷え固まって、同じ場所とは思えないほど空気が違うのです。
その工房の様子が 緑さんの心をうつしているようで、胸が苦しくなりました。
緑さんがガラスという素材に強く惹かれ、打ち込んでいく姿を、自分に重ねてしまって。
いつか緑さんのように自分の気持ちがしおれてしまったら、もう一度火を灯せるでしょうか。
物語の最後、暗い暗い夕闇に はるさんが火を灯してくれて、救われた気持ちになりました。
今はまだ走り出したばかりですが、いつか途方に暮れてしまった時、またこの本を開いて 大切に磨かれる器たちの物語に触れ、心の燃料にできたら と思います。
増田早紀さん
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