寄稿帖

にしむらあきこ

梅雨の日

・・・雨が降っている。縁側に揃えて置いたスニーカーに、水が溜まっている。そこに雨がわっかをつくる。わっかのなかに細い線がいくつも走っている。ぴちっと音がして、スニーカーから何かが飛び出した。赤い小さな魚だった。ぴちっぴちっと飛んでいく。引き...
富井貴志

池に想う

つい先日まで乾いていた空気にもじっとり重みを感じるようになりました。これから徐々に木の仕事には難儀する季節に向かっていくわけですが、山も庭もあっという間に濃淡の緑に彩られ、心華やぐ時でもあります。2週間ほど前にはまだホワホワと柔らかな色合い...
にしむらあきこ

春の日

わたしは少し、狂っていたと思う。あの日。あの、9年前の春。長い冬を越えて、さまざまないきものの命の喜びが溢れる。あたたかな日差しや、風の運ぶ花の香り、桜の淡い色景色。それらを楽しむことも忘れて、わたしは情報をいち早く手に入れたくて始めたツイ...
にしむらあきこ

冬の日

窓はたっぷりと結露し、外はまだ暗い。「だして、だして」と騒ぐ白猫と黒猫を、薄く窓を開けベランダに出してやると、隙間からわたしの呼吸がもれて高く登っていく。2匹は寒さですぐに「いれて、いれて」と戻ってくる。2月の朝。息子はこの2月で10歳にな...
富井貴志

山に追いやられた木

日本の山は木で覆われている。平地の少ない地域を別にすれば、平らな低地で米作りを追求してきたためだろう。特に僕が住んでいる新潟県中越地域では平地は水田、木は山にといった景色が延々と続いている。我が家はいわゆる中山間地域にあるので、棚田も多く、...