クリスマスに工藝を灯して 2025
11/22(土)〜12/21(日)
ローマ在住、斉藤田鶴子さんからのメッセージをお届けします。
田鶴子さんはイギリスの大学と大学院で染織を学び、
イタリア人とご結婚後、現在はローマ在住で、制作と研究を続けていらっしゃいます。
ギャルリ百草でイタリアの作家とともに展示をしたり、質の高いお仕事をじっくりと進めていらっしゃいます。
特にリネンを中心とした素材への探求は深く、その特徴を生かした美しい布づくりには心打たれます。
今回の出品作品について、メッセージを寄せていただきました。
<アイリッシュリネンスカーフについて>
アイリッシュリネンの最上級極細糸80番手と100番手を使用し製作しました。
アイルランドでは古くから上質なリネン糸の紡績技術が発達し、世界中にその名を知られていましたが、近年他国の安価なリネン糸の影響でその伝統は失われ、アイルランドでの製糸産業も現存する会社はほとんどなくなってしまいました。
同じリネン糸でも、アイリッシュリネン糸は使うほどに艶がまし、比較的長持ちなのが特徴です。
「Paw」はスカーフの縁部分にカシミアを使用。
猫の手がそこだけ色の違うふさふさな感じをイメージしてPawと名づけました。
ヨコ糸が80番手使用ですので、「Dew」に較べるとほんの少しだけ厚みがあります。
Dewはスカーフの縁部分にアンティークのビーズを織り込んで水の滴の滴る様子を表現しています。
ヨコ糸が100番手なので「Paw」に較べると軽くて薄いです。
<100%カシミアショール、Rocca(六華)>
イタリアのLoro Piana(ローロピアーナ)社のカシミア使用。
イタリアでは良質のカシミアを作る会社がまだ多く現存し、山間地でカシミア山羊を育てている会社もあります。
普段はリネン、大麻と夏向けの涼しい素材を織ることが多いので、今回は冬向けにカシミア糸に挑戦してみました。
六華とは雪の結晶の意味です。
<Mappaについて>
Mappa(マッパ)とは、イタリアの布巾のことです。
シンプルな正方形(またはそれに近い)布で、沖縄の‘うちくい’や、日本の風呂敷に類するマルチな布のことです。
以下、以前ギャルリ百草での展示の際に作成した説明文をお伝えします。
Mappa(マッパテッラ)|古いリネンや大麻の布巾
イギリスで過ごした学生時代、長期の休暇には学生寮が閉まってしまうので友人知人の家を渡り歩いて過ごしたのですが、そんな時に手製の風呂敷が大活躍していました。
スーツケースの上にひろげればテーブルになり、吊るせば簡単な間仕切りにもなり、タオル代わりに手を拭くこともできれば、いざという時に身のまわりのものをさっと包んで急いで移動する事も出来ました。
人の家に泊めてもらう図々しさがありながら、実は慣れない環境で心細く感じる事もあり、そんな時は枕カバーにすれば安心して眠れるという時もありました。
風呂敷は私にとって自分自身のテリトリーを作る装置のようなものだったのです。
ナポリの姑は私が必ず風呂敷で衣服を包んでいるのを見て、「マッパテッラなんか持って!」とよくからかいます。
ナポリでは昔、マッパテッラという四角い布を風呂敷と同じ様にものを包むのに使ったり、台所で食べ物を包んだりするのに使う習慣があって、それは貧しかった時代の象徴らしいのです。
私の風呂敷は貧乏臭く見えるのか~、と一寸戸惑いましたが、海外で暮らす日本人達の旅の荷物を覗くと皆例外なく風呂敷が入っているのを確認し、やっぱりとうなずいてしまうのです。
イタリア語でFare fagottoという言い方があって、文字上は「布で荷を包む」という意味なのですが、立ち去るとか、出発するという意味合いがある様です。
四角い布の隅をきゅっと結んで、いざ飛び出すという心情は、風呂敷を常に持ち歩く身の上にとっては親しみのある感覚です。
イタリアには今でも古いリネンや大麻の布を市場などで眼にする事が多く、我が家の引き出しにも親戚や知り合いから譲り受けたタオルや布巾(前述のマッパテッラの類い)があり台所や洗面所で活躍しています。
どこのどなたが使ったか分からない古い布、しかもタオルやふきんの類いを使うなんてなんだか信じられない気もしますが、リネンや大麻の布はきちんと洗えば新品同様の清潔さに戻り、しかも使いこんだものはしっとりと体になじむ優しさがあってその魅力にすっかりまいってしまっているのです。
ひとつひとつに作り手や使い手の生活が織り込まれていて、見ていてあきることがありません。
私の織る布など、この健康的で丈夫で働き者の布達の足下にも及ばないことは承知しているのですが、ほんのちょっとでもこれらの布へ私なりのつぶやきが返せたら、と四角い布を作っています。
齋藤 田鶴子
今回ヒナタノオトの出展作は1点のみヨコ糸に手つむぎの大麻を使用しています。
イタリアの工事現場などでよく水道管を結合する際に、水の漏れを防ぐためにゴムパッキンではなく、古くから大麻の繊維が用いられており現在でも一般的な素材です。
私はその大麻の繊維を工具店などで入手し、洗浄、漂白した後、糸車で糸を紡いだものをMappa作りに使用しています。
イタリアの家庭で古くから使われているヘビーユースの布巾は多くの場合大麻の糸で作られており、独特な黄色味がかかった生成色と乾いた感じのテクスチャーが特徴です。
<私の提案したいMappaの使い方>
台所周り、洗面所周りでタオルとしてお使いいただく他にも、布端に取り付けたループに対角線上の布はしを通すことで簡単なネックウェアとして、または三角巾のように被り物としてお使いいただいても楽しいかと思います。
使い方はお使いいただく方のアイデア次第!です。
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水道管のゴムパッキンの代わりに使う大麻糸ってすごいですね。
ローマのインフラの始まりは、気の遠くなる昔のこと。
当時からこのような養生をされていたのかもしれませんね。
このほか、Ulivo(オリーブ)と名付けられたスカーフも何とも言えない風合いが魅力です。
使い込むほどに、艶とよきこなれ感が増していく上質の糸で織り上げられた田鶴子さんの布。
ぜひ、ヒナタノオトでお手に触れてみてください。













