竹かんむり小話

稲垣 尚友

筒Ⅱ 追記あり

2021.01.10

戦後間もないころ、房総半島南端の村で育ったわたしは、子どものころの遊具には竹が多かった。
遊具は自分たちで作るのだが、誰もが肥後守(ひごのかみ)という〈伝家の宝刀〉を持っていた。
折りたたみ式の小刀で、取っ手と刃先を合わせても十五センチほどの小ぶりである。
学校の門口に店を構えている駄菓子屋で、五円を出せば買えた。
子どもの世界では、肥後守を持っているということは、イッチョマエである証しでもあった。

肥後守は万能であった。
ひとりが近くの竹藪に入って竹を切り始めると、群れ歩いている子どもたちは、世の中の動きから遅れてはならじと、血相を変えて藪に入り適当な長さに切った竹を調達する。
それはチャンバラごっこ開始の合図でもあった。

干戈(かんか)をまじえるのに飽きると、竹鉄砲を飛ばした。
細めの竹筒にヤツデの実を詰めて、それを筒より細い竹で奥に押しこむ。
その後、別の実を詰めてから力を入れて再度押し込むと、ポンという乾いた破裂音と同時に、先に詰めておいたヤツデの実が飛び出す。
トコロテンを筒から押し出す仕草と同じである。
これを相手目がけて打つ。
当たると痛い。

こうした鉄砲打ちを何十回となく繰りかえしているうちに、筒が熱をもつ。
摩擦熱が起きるからだろう。
子どものころの記憶だから、間違っているのかも知れないが、一度だけ、煙のようなものが筒口から立ち上がったような気がした。
そう思えるほど夢中になって遊んでいたのだろう。

竹鉄砲が飽きると、丈夫な紐をどこからか持ち出してきて竹弓を作った。
矢には真っ直ぐで細い竹を使った。
大人たちがヤダケとかヤジノとか呼んでいる竹藪の在りかを知っている仲間がいて、敵も味方も一緒になって、より真っ直ぐな竹を切り出す。
熱帯雨林の原住民ならば、弓で空飛ぶ鳥を射落とすこともできるのだが、子どもらの射ぬく先は天空である。
どこまで高く飛ばせるかを競っていた。
子どもごころにも、矢を水平に射るのはキケンだと知っていた。

十六世紀の中ごろにポルトガル人が種子島に火縄銃をもたらす前までは、合戦に使う武具といえば鉄剣と弓矢ぐらいであった。

火縄銃も竹が大切な役割を果たしている。
この銃の構造は、雷管の代わりに火縄を使って点火薬に点火して弾丸を発射させるのだが、はじめのころは檜や木綿の繊維を柔らかくほぐして火縄として使った。
わたしが以前に住んでいたトカラの島々では、火縄とは言わずにホクチ木と呼んでいた。
マッチが普及する前の戦前期まで火打ち石が日常的に使われていた。
火打ち石で起こした火種をホクチ木に点火させ、そのホクチ木の火を大きくして、風呂を沸かし、調理にも使い、タバコの火付けに利用していた。
火打ち石のことをカドイシ(角石)と呼んでいた。
マッチが出回ってからでも、神事が執り行われるときだけはカドイシの火を使った。
古代から続く習わしを島の人は大切にしていたといえる。
火の神に穢れがあってはならい、という信心が宿っているのだ、と思った。

子ども心にも、「ヒゴノカミ」という響きから、何だか、粗末にしてはいけないような気がしていた。
「……カミ」の名が付けられていたからだろうか。
でも、竹藪に入って、仲間に遅れをとってはならじと、夢中でカミ様を振り回すとき、信心などどこにもなかった。

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編集者記

稲垣尚友著 『やさしく編む・竹細工入門」で紹介されている「買い物籠」と「六角目籠」の制作キットをソラノノオトで販売します。
今回のご用意が最後の予定(少なくともしばらくは制作予定がありません)ですので、ご希望の方はこの機会にお選びください。
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追記
(びっくりするくらい)早々にキットが完売いたしました。
ありがとうございました。
リクエストメールもいただき、恐縮です。
キットのご用意は、季節性(竹の伐り時)のことがあったり、なかなか細かな作業があって、
コンスタントにご用意ができなくて申し訳ありません。
おそらく想像いただく以上にあれこれ手間が重なるんですね。
なので、ほかにこういうキットって販売していないのだと思います(笑)
一応今回で終了と思っておりましたが、いずれ機会を作りたいと思います。

2月くらいには、完成品の買い物籠と盛り籠をご案内させていただく予定で制作段取りをしております。
完成の折には、あらためてご案内させていただきます。


Writer

  • 稲垣 尚友
  • 稲垣尚友
  • この欄を担当することになりました稲垣尚友です。
    房総半島南端の街・鴨川の山中で竹カゴを編んでおります。
    修行をしたのは熊本県の人吉盆地の奥、市房山のふもとに近い錦町です。
     
    カゴ編みを生業とする前は、トカラ諸島の島々のひとつである平島(たいらじま)に住んでおりました。
    全島を覆うようにして、琉球寒山竹が植わっています。
    島ばかりでなく、あちらこちらと巡っているなかで見つけた仕事が竹細工です。
     
    現在は、竹という素材が暮らしのなかではあまり目立ちませんが、
    竹に関する資料は膨大で、竹冠の付いた漢字がポケット判『新字源』(角川書店刊)ですら、160あります。
    さらには、日本人が編み出した国字といわれる文字にもあります。
    よく目につく「笹」もそのひとつです。
    中国大陸で発行されている大字典には千近くあるそうです。
     
    竹冠に関する語のひとつひとつからは、永年にわたる人びとの暮らしぶりが伝わってきます。
    そうした、暮らしのなかでの竹の話を始めようと思います。

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