kegoya-goyomi

熊谷 茜

2つ目の木小屋(けごや)

2020.12.30

2つ目の木小屋を探していた。

山形県南部の置賜地方の農家には、木小屋(けごや)と呼ばれる納屋がある。
新しく建った母屋の脇に、板張りしただけの古くなった木小屋というコンビをよく見かける。
もう数十年も風雪に晒された木小屋の板は、柔らかい木の肌だけが削られ、繊維である硬い木目が浮き出したように波立ち、触っても凹凸を感じる模様ができている。
この辺の方言では「うづくい」と呼ばれる造形は、人間でいうと皺が深く刻まれた、それでいて優しい表情のおじいさんのよう。

「こんな小屋がいいの?」
名刺を渡して、1つ目の小屋をアトリエ化した実績らしいものを説明して、やっと話を聞いてもらえる。

「この小屋も壊してしまうくらいなら、若い人たちがにぎわい作りに使ってくれるならいいと思うよ」
と言ってくれたり、
「こんな小屋、ほらもうあちこち崩れているし、もう危なくて入れないよ。
やめたほうがいいよ。
こんな小屋がいいなんて、変わっているね」
と豪快に笑われたりする。

空き家になっている母屋を改装したほうが、断熱性、水回りの完備、どれをとってもいいのは分かっているけれど、惹かれてしまうのは木小屋の方。

木小屋には、古い木の額のような良さもあって、壁につるバラがつたってたくさん咲いたときには、とても絵になる。
折り畳みのテーブルと椅子を出して、かごに飲み物と季節の果物を混ぜて焼いただけのパウンドケーキを置いたら、毎年いくつかの季節には絵に閉じ込めたような世界が作られる。
もう解体される運命の木小屋を、ただただ可愛いと思って妄想を描き出している私の頭の中を現実にしたい。
まるで魔法の杖を一振りして、「ほら!可愛くなった」と言うように。

小国町のこういう素朴な風景や生活に光を当てたい。
昨年旅したポーランドの田舎町に見えなくもない。
かごが似合うあの町に、一瞬でトリップできちゃうような。
小国町だって、国道を走ればチェーン店の大きい看板があって、近隣のどの町も同じように見える。
でも、車を止めて少し歩いたら出逢う、素朴な木小屋ゲストハウスがあったら?
今日ここに泊まれるの?というウキウキした気持ち。

山に入るのが好きだというNさんと、今年の秋はあけびのつる採りを週2回、一緒に山に入ってもらった。
熊がたくさん出ていた今年は、とても心強かった。

あけびのつる採りをしながら、いろんな話をした。
熊除けに携帯で鳴らしていた音楽をもう止めてしまって、いろんな話ができるほど、その人の存在は山の中を照らした。
山との間に心の距離が無い人を尊敬してしまう。

その人には福島県に長年住んで改装を進めていた古民家があった。
震災のときに放射能が迫ってきていて、7年かけてやっとお風呂に入れるようになって10日目だったのに避難することを決めた。
小国にもきたけれど、途中、西日本の観光地も経由しながら、また「何もないから」という理由で小国を選んで戻ってきた。
私も何もないようで山の恵みに囲まれたこの町の暮らしが好きだった。

ある日Nさんが「私の温熱療法の実験台となってくれていたおじいちゃんが、木小屋を好きに使っていいよ、だって!」と話を持ってきてくれた。
小さな小屋には、農機具がどすんと居座り、その周りや梁の上にも、たくさんの物がしまわれていた。
だけど、珍しく釿(ちょうな)で削られた跡が素朴な梁が十字に走っていて、内面も光るおじいさん小屋だった。

1階建てだけど、屋根裏にちょっとした高さがあるから、そこを寝るスペースにできそうだな。
少しだけkegoyaらしく、寝るところの柵は枝を大胆に編んでみたりして。

目に見えるものの先に、目には見えない輝くものが見えたら、GOサイン。
紹介してくれたNさんと、木小屋の主の老夫婦。
つながってきた人たちが、目を輝かせてくれていたら、2つ目のGOサイン。
相思相愛の部分が少しあれば、あとはゆるゆるとやれる気がする。

何もない小国町だけど、車で数分行くと清流や雲海や雪山や星空が見られる。
別世界が急に現れる小国の地で、そこにつながるためだけの木小屋。

もうすぐ雪が降るので、妄想期間にしよう。
春になったら中のものを片づけて、水道をひいて、電気をひいて、壊れた外壁はうづくいを生かしたまま少し直して、内側の壁は近くの山の赤土を混ぜて塗ってみようかな。

人が滞在できるようになった木小屋はどんな気持ちでいるかな。
魔法をかけたい木小屋があちこちにあって、「ちょっと待ってて、可愛いね」と車で通りすぎるたびに無言で話しかけてしまう。


Writer

  • 熊谷 茜
  • 熊谷茜
  • 1979年東京都生まれ。
    東京農業大学農学部卒。
    2004年山形県飯豊・小国地方に移住。
    土地に 根ざす「かご細工」と出会う。
    炭焼きなどを生業とする夫と子ども二人で小国に暮らす。
    2016年古い木小屋を改装し たアトリエを設ける。
      
    kegoyaとは木小屋のこと。
    この地域の方言で納屋・作業小屋のことをいう。
    移住した20代の頃に出会ったおじいちゃん、おばあちゃんたちの「木小屋」に感動し、憧れ、心の拠り所としてきたものを屋号として活動している。
     
    +++
     
    2009年の工房からの風で茜さんと出会いました。
    まだ結婚されたばかりで、かご編みをどのように仕事としてよいか模索する中、「なぜ、かごを編むのか」その核心にはゆるぎなく、ものづくりの錨が、心の海にしっかり下ろされているのを感じました。
     
    そして茜さんの編むかごの魅力!
    愛らしさと野性味!日本的な美と西洋的な美、いにしえもモダンも垣根を超えた茜さんならではの美が、独特のさじ加減で現れている。そのことに目を瞠りました。
     
    その後、女の子、男の子に恵まれ、逞しく頼もしい夫君との4人家族で、雪国での暮らしの中で、かご編みを続ける茜さん。
     
    「生きている」
    その手ごたえある茜さんの人生の、大切なかけがえのないひとひら、ひとひら。
    そのひとひらずつを、春夏秋冬を通して綴ってほしい。
    そう願って、この連載をお願いしました。(稲垣早苗)

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