連載
作り手による文章の世界

kegoya-goyomi

熊谷 茜

雪と火と

2020.01.10

1月は積もってきた雪に生活のリズムが慣れてきた頃。
朝、夫がブリキの薪ストーブに火をつけて、炭窯の様子を見に行ったり、玄関から道路までの除雪をする。
私は台所で朝食を作り、子どもたちが起きてきて、着替えと朝食後、それぞれ小学校のスクールバスと保育園への見送り。

薪ストーブの火がおき火になった頃、バケツにおき火を移して熱さ対策にしっかり軍手をしながら木小屋まで運ぶ。
木小屋の鋳物の薪ストーブはなかなか言うことを聞かないので、これが一番早い着火方法。
窓の雪囲いはまだしなくて大丈夫かな、と積雪の具合を確認しながら、窓にらくらく届きそうなくらい雪が積もる頃に雪囲いのパネルを持ってきて固定する。

多く積もった日は、小屋の玄関先をママダンプで除雪する。このときスカートの裾は濡れてしまうけど、温かくなった部屋で乾くから気にしないことに。
あとは、出勤したと思えば、あたたかい部屋で、何を作ろう、どう作ろう、と生み出す作業に移ることができる。

窓から眺める先は雪原と雪山。
12月から5月に入る約半年間、雪や冷たい風の中に立つ木の存在が目に入る。
夜に冷えて晴れた朝は霧氷で飾り付けられた木が煌めく。
遠くの山肌では葉が落ちて剥き出しになった枝が氷の粒をまとい、樹形どおりのやわらかな弧を描きながらうろこ雲のようにふわふわきらきらと水色の空に呼応している。

真っ白に広がる雪の布団。
冷たく重く、植物も人間も半年間休めといわれているよう。
冷酷な面もあり、例えば落ちてきた屋根雪に埋もれたら翌朝まで命を灯すことは難しい、いくら我が家でも一枚壁の外は危険な世界。

半面、ゆっくり成長する植物は素材としての恵みをもたらす。
かごの材料となるあけびは強くしなやかに成長し、炭材のナラは硬く育つ。

炭窯での炭出し作業を4歳の息子が見ていた。
炭焼き小屋は雪に耐えるために地面から伸びる三角屋根の構造で、煙の排出のために壁がない。
立っているだけでは凍えてしまう小屋で、炭出しが始まると赤々とした炎をまとって出てくる炭からの熱で、離れていても顔が熱くなっていく。
「火が雪よりこーんなに強くなっているね。」
と興奮気味に話す息子。
冷たい世界に暮らすことの要素をもう肌で感じている。

3時半を過ぎるとスクールバスで1年生の娘が帰ってくる。
あたたかくしているのは作業部屋だけなので、私が仕事をしている脇で小さなかごや小鳥のオブジェなどを使っておままごとをしたり宿題をして5時まで過ごす。

5時半に保育園のお迎えを済ませてからは、また母屋の薪ストーブをつけて、夕食づくり、お風呂、と子どもたちを次へ進めることで精いっぱい。
吹き抜けの構造の台所とそこを通るお風呂までは外のように寒く、暖房も効果がないのでとにかく急いで駆け抜けるところ。
台所でささっと炒めて薪ストーブで煮込んだりする料理も多くなる。
冷蔵室の代わりとなる下屋では畑から採れた白菜やかぼちゃ、カブなどが煮込まれる日を待っている。

ごはんとお風呂で体があたたまった頃、薪ストーブでやかんにたくさん沸かしたお湯を湯たんぽと翌朝飲む水筒にたっぷり入れる。この作業が1日を終えることと同意義で、もうぬくぬくとした気持ちになっている。

歯磨きを終えた子どもたちも湯たんぽを抱えて寒い階段を上がって2階の寝室へ着くと、布団へ飛び込む。湯たんぽと子どもたちに挟まれて眠りにつくことで、外でどれほど寒く吹きすさぶ音が聞こえてきても、大きな何かに守られていると感じる。
それは、湯たんぽのお湯からで、薪ストーブで燃える薪からで、春から秋に成長して雪の中耐えて立ったあの木々のエネルギーからきている温かさが今日も無事だったね、と私たち家族を守ってくれている。

朝はまたきらきらしている。
子どもたちが元気よく階段を下りてくる音を聞くと、わたしは疲れがとれたふわりとした体と冬の透明な光を感じて今日1日がはじまったと思う。

今日もまた火を点けよう。

(雪景色以外の画像撮影:渋谷和江)


Writer

  • 熊谷 茜
  • 熊谷茜
  • 1979年東京都生まれ。
    東京農業大学農学部卒。
    2004年山形県飯豊・小国地方に移住。
    土地に 根ざす「かご細工」と出会う。
    炭焼きなどを生業とする夫と子ども二人で小国に暮らす。
    2016年古い木小屋を改装し たアトリエを設ける。
      
    kegoyaとは木小屋のこと。
    この地域の方言で納屋・作業小屋のことをいう。
    移住した20代の頃に出会ったおじいちゃん、おばあちゃんたちの「木小屋」に感動し、憧れ、心の拠り所としてきたものを屋号として活動している。
     
    +++
     
    2009年の工房からの風で茜さんと出会いました。
    まだ結婚されたばかりで、かご編みをどのように仕事としてよいか模索する中、「なぜ、かごを編むのか」その核心にはゆるぎなく、ものづくりの錨が、心の海にしっかり下ろされているのを感じました。
     
    そして茜さんの編むかごの魅力!
    愛らしさと野性味!日本的な美と西洋的な美、いにしえもモダンも垣根を超えた茜さんならではの美が、独特のさじ加減で現れている。そのことに目を瞠りました。
     
    その後、女の子、男の子に恵まれ、逞しく頼もしい夫君との4人家族で、雪国での暮らしの中で、かご編みを続ける茜さん。
     
    「生きている」
    その手ごたえある茜さんの人生の、大切なかけがえのないひとひら、ひとひら。
    そのひとひらずつを、春夏秋冬を通して綴ってほしい。
    そう願って、この連載をお願いしました。(稲垣早苗)

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